労働法コラム⑭新型コロナウイルスに伴う休業手当について

 新型コロナウイルスが蔓延し、各地で感染者が増加しています。使用者の方にとっては、職場内でのクラスターの発生などに、十分に警戒する必要があり、体調不良などの兆候がみられる従業員への対応を適切に行う必要があります。
 以下では、新型コロナウイルスに関連した従業員の休業関連について、説明致します。
 

ポイント

  • 社内での感染拡大を防止することを第一に考えましょう。
  • 客観的にみて「感染を疑わせる状況にあるかどうか」を確認しましょう。
  • 普段通りに仕事をすることが可能な従業員を会社の判断で休ませる場合には、原則として休業中も賃金の支払いが必要です。

Q&A

Q:従業員から、「最近、熱があり、咳も続いている」という申し出がありました。この従業員に対して、自宅待機を命じても問題ないですか。自宅待機を命じる場合には、賃金を支払わなければなりませんか。また、逆に、従業員を休ませないことで何か問題になることはありますか。
A:体調不良の従業員に対して、会社が自宅待機を命じることは可能です。ただし、その従業員が普段通りに仕事をできる健康状態にある場合に会社の判断で自宅待機を命じるときは、会社は休業手当(少なくとも平均賃金の6割以上)を支払う必要があります。
 従業員が自治体や保健所の指示や要請により自宅待機をする期間中は、会社は賃金の支払義務はありません。
 

解説

① 社内から感染者を出さないことを最優先に

 会社には、従業員の生命・身体の安全を確保する安全配慮義務や健康配慮義務があります(労働契約法5条)。現在の新型コロナウイルスの感染拡大の状況からすると、会社は、社内で感染が拡がらないように細心の注意を行い適切な対応をする法的な義務を負っているといえます。
 また、社内から感染者が出た場合、一定期間は事業を停止さざるを得ず、また、風評被害の発生も想定されます。したがって、会社の事業運営の観点からも、何としても社内から感染者を出さないようにしなければなりません。
 

② 従業員の状態を正確に確認する

 会社が適切に対応するためには、従業員の健康状態などを正確に把握することが前提となります。従業員の健康状態によって、会社が自宅待機を積極的に命じるべきかどうか、自宅待機などを命じた場合の賃金の支払いの必要性などが変わってきますので、正確な状況を把握する必要があります。
 従業員に、毎朝検温とその結果の報告を指示して、従業員の体調を毎日、正確に把握するようにしましょう。
 

③ 普段通りに仕事ができる状態であるものの感染を疑わせる症状がある場合

 風邪症状があるものの普段通りに仕事ができる従業員の対応はどうするべきでしょうか。この段階では、まだ、会社に従業員を休業させる安全配慮義務や健康配慮義務があるとまではいえません。
 もっとも、新型コロナウイルスの感染力の強さ、重症化した場合の健康被害の大きさ、社内から感染者が出た場合に会社が被る被害の大きさなどを考えると、軽症の風邪症状であっても、新型コロナウイルスに感染している可能性がある以上は、自宅待機を命じるべきでしょう。
 この場合、従業員は仕事ができる状態にあるけれども、会社の都合で休業をさせることになりますので、会社は休業手当として平均賃金の6割以上を支払う必要があります(民法536条2項、労基法26条)。
 

④ 感染の疑いが強い場合

 厚労省が相談の目安としている「息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合」、「症状が4日以上続く場合」などに該当する時は、もはや、客観的にみて「職務の継続が不可能」な状態にあるといえ、会社は自宅待機などを命じるべきです。仮に、従業員が感染の疑いが強いことを把握していながら、休業をさせず、これにより他の従業員に感染が発生した場合、従業員の生命・身体の安全を確保する安全配慮義務や健康配慮義務に違反して従業員に損害を与えたとして、会社が従業員に損害賠償義務を負う事態も考えられます。
 会社の都合とはいえない不可抗力での休業の場合、会社は従業員に休業手当の支払う必要はありません(民法536条1項)。厚労省が公表する相談・受診の目安に該当する症状であれば、感染の疑いが強いといえるので、このような状態の従業員を休業させることは、会社の都合によらない不可抗力での休業といえ、従業員への休業手当の支払いは不要であると解すべきです。(なお、厚労省のQ&Aでは、このような場合であっても、会社都合による休業なので休業手当を支払う必要があるとされています。しかし、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大状況や国・自治体の対応の状況からすれば、相談・受診の目安に該当する場合であれば、会社従業員をそのまま勤務させるという選択肢はなきに等しく、不可抗力による休業をみるべきです。)
 なお、この場合でも、従業員が被用者保険に加入していれば、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されます。具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近の12か月の平均の標準報酬日額の3分の2の金額が傷病手当金として支払われます。
 

⑤ 従業員が新型コロナウイルスに感染した場合

 令和2年2月1日付けで、新型コロナウイルス感染症が指定感染症として定められたことにより、従業員が新型コロナウイルスに感染していることが確認された場合は、感染症法に基づき、都道府県知事が、当該従業員に対して就業制限(感染症法18条)や入院の勧告等(感染症法19条)を行うことができることになります。
 新型コロナウイルスに感染しており、都道府県知事が行う就業制限により従業員が休業する場合は、一般的には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられ、休業手当を支払う必要はありません。なお、被用者保険に加入していれば、傷病手当金が支給される場合があることは、④で述べたとおりです。
 

⑥ 従業員の家族に感染者が出た場合

 従業員の家族に感染者が出た場合には、その従業員の健康状態には問題がない場合であっても、濃厚接触者として、自治体や保健所から、一定期間、自宅待機の要請を受けることになります。その間、従業員は会社の責任と判断で仕事をできなくなったわけではありません。すなわち、この場合の休業は、会社都合ではない不可抗力による休業ですので、会社は賃金を支払う義務はありません。この場合も、被用者保険の傷病手当を受給し得ることは先に述べたとおりです。
 自治体や保健所から自宅待機を求められる期間が解除された後も、会社の判断により念のため更に数日間の自宅待機を命ずる場合には、会社都合による休業になるため、会社は休業中の賃金を支払う必要があります。

(執筆 弁護士倉橋芳英)

 
 

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