遺言についてのQ&A
目次
Q1.複数の遺言が見つかりました。それぞれの遺言の効力はどうなりますか。
遺言書の作成について、個数・枚数制限などはないため、複数の遺言が見つかる可能性はあります。この場合、以下の手順などにより、遺言の種類ごとの特徴に注意しつつ、有効な遺言内容を模索していくことになります。
(1)遺言の発見 まず、封印された自筆証書遺言や秘密証書遺言を発見した場合、絶対に封を開けずに、そのまま家庭裁判所に提出し、「検認」の手続きを経るようにしましょう。家庭裁判所に提出しなかったり、封を開けてしまったりすると、5万円以下の過料に処されますし(民法1005条)、遺言が偽造変造されたとして、遺言の有効性が争われるリスクが格段に高まるからです。
また、公正証書遺言や保管制度を利用した自筆証書遺言については、公的に保管されているため、遺言者の遺品などからは出てきません。公正証書遺言の有無は、全国公証役場で遺言検索の申出を行うことにより把握できますし、保管された自筆証書遺言の有無は、全国の遺言書保管所(法務局)に対して遺言書情報証明書の交付請求をすることにより把握することができます。
(2)遺言の有効性の確認 遺言を発見し、必要な手続き(検認など)を経た場合、それぞれの遺言が有効であるかを確認する必要があります。普通方式の遺言としては、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言がありますが、これらの作成にはいずれも厳格な形式的要件(自筆の要否や公証人・2名以上の証人など。)が定められています。また、それぞれに遺言作成時において、遺言者に遺言能力が認められないとされた場合も、その遺言は無効となります。そのため、複数の遺言が見つかったとしても、遺言の形式的要件や遺言能力を欠いていないかをそれぞれ確認する必要があります。
(3)遺言の撤回の有無 遺言は簡単に撤回することができます。①遺言者が前の遺言と撤回すると明言した遺言を作成した場合だけでなく、②前の遺言と矛盾する遺言を作成した場合や、③前の遺言と矛盾する行為をした場合なども遺言が撤回されることになります。そのため、それぞれの遺言書の作成日を確認したうえで、前の遺言が後の遺言と矛盾して撤回されていないか、遺言作成後に矛盾する行為がなされていないかなどを確認する必要があります。なお、遺言の撤回は、その遺言全体を撤回するのではなく、その特定の箇所のみが撤回されます。
(4)それでも複数の遺言が残る場合 遺言が有効で、撤回もされない箇所については、それぞれ有効な遺言が併存しているということになります。そのため、この場合には、複数の遺言に従った遺言の執行(遺言内容の実現)が必要となります。
Q2.遺言書が出てきたら、まずどうするべきですか?
遺言者が死亡し、遺言書が発見された場合、以下のような流れに沿って、遺言を執行していくことになります。
(1)遺言者死亡・遺言書発見~検認までの流れ
この段階については、遺言書の種類によって、それぞれ対応が異なってきます。
ア 保管制度を利用していない自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合 自筆証書遺言・秘密証書遺言を保管している方や、これらの遺言を発見した方は、家庭裁判所に提出し、「検認」を受ける必要があります(民法1004条1項)。この検認は、遺言書の偽造変造や隠匿を防止するために行われます。また、封印のある遺言書については、家庭裁判所において相続人の立会いがなければ、開封してはならないとされています(同条3項)。これらの規定に反した場合、5万円以下の過料が処されることになりますし(民法1005条)、相続人や受遺者の間で遺言の有効性について争われる可能性が高まります。
イ 保管制度を利用した自筆証書遺言の場合 自筆証書遺言保管制度を利用している場合には、その自筆証書遺言は法務局に保管されています。そのため、遺言者が死亡した場合、相続人や受遺者、遺言執行者などは、遺言を保管する法務局に対し、その遺言書の閲覧などを請求することができます。また、この制度を利用した自筆証書遺言については、偽造変造・隠匿のおそれがないため、家庭裁判所による「検認」を受ける必要もありません。
ウ 公正証書遺言の場合 公正証書遺言の場合、遺言は公証役場に保管されており、偽造変造・隠匿のおそれがないため、家庭裁判所による「検認」を受ける必要がありません。
(2)遺言の執行の流れ
遺言の内容のうち、相続分の指定や遺産分割方法の指定などについては、相続開始とともに効力が発生すると考えられます。一方で、遺言内容を実現するにあたっては、「遺言の執行」が必要となる事項もあります。遺言の執行を誰が行うかは、遺言執行者がいるか否かにより変わります。
ア 遺言執行者がいる場合 遺言執行者が、遺言内容を実現するために、遺言の執行に必要な一切の行為を行うことになります(民法1012条1項)。たとえば、①遺言執行者がいれば、「遺贈の履行(ex.遺産の引渡しや登記移転など)」は遺言執行者のみが行うことができるとされています(同条2項)。また、②遺産に属する財産を特定の共同相続人に承継させる遺言(このような遺言は、「特定財産承継遺言」と呼ばれています。)がある場合には、遺言執行者が行うことができる事項が多いです。具体的には、遺言執行者が、その共同相続人が対抗要件を具備させるために必要な行為をしたり(同法1014条2項)、特定財産承継遺言の対象が預貯金債権である場合には、その預貯金の解約などを申し入れたりすることができます(同条3項)。
遺言執行者がいる場合、相続人は、相続財産の処分その他の遺言執行を妨げる行為をすることはできず(同法1013条1項)、相続人がそのような行為は無効となります(同条2項本文)。
イ 遺言執行者がいない場合 遺言執行者がいない以上、遺言の履行(遺言内容の実現)は、相続人が行うことになります。たとえば、遺言に「遺言者は、その有する甲土地を、A(相続人以外の者)に遺贈する。」という内容が含まれている場合、相続人は、相続人でないAに対して、遺贈を履行する義務を負うことになります。
Q3.夫婦に子どもがいない場合に遺言は必要?私には子どもがいないのですが、配偶者と、私の直系尊属(父母)や兄弟がいます。ところで、私は配偶者に全財産を遺したいと考えています。この場合、遺言の作成は必要でしょうか。
以下の理由からして、可能な限り遺言を作成することが望ましいといえるでしょう。
(1)特定の相続人(配偶者)により多くの財産を遺したいという意思を示すことができること 遺言がない場合、民法の規定に従って、相続人となる方が相続財産を承継することになります。配偶者の方はもちろん相続人となりますが、その他にも相続人となりうる可能性がある方はいます。被相続人に子どもがいらっしゃらない場合、被相続人の直系尊属や兄弟姉妹が相続人となる可能性があります。具体的には、①直系尊属がいる場合には、配偶者と直系尊属の法定相続分は2:1、②直系尊属はいないが兄弟姉妹がいる場合には、配偶者と兄弟姉妹の法定相続分は3:1となります。そのため、被相続人となる方が、配偶者になるべく多くの財産を受け取ってほしいと考える場合には、遺言により、法定相続分より多くの財産を渡したいという意思を示す必要があるでしょう。
なお、配偶者への遺贈が大きく、他の相続人の遺留分(相続人が相続により最小限得られる利益)を侵害している場合、他の相続人は、遺留分侵害額請求として、配偶者に金銭の支払いを求めることができます。遺留分を有するのは、被相続人の配偶者・子ども・直系尊属に限られます。そのため、被相続人の兄弟姉妹は遺留分侵害額請求をすることはできません。したがって、相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者に全財産を相続させるという遺言を作成すれば、配偶者が(遺留分を侵害することなく)全財産を受け取ることができます。
(2)相続人間での争いを最小限に抑えることができること 相続人が配偶者以外にもいる場合において、遺言が作成されていなければ、相続人同士で遺産分割を行う必要があります。法定相続分が定まっているとはいえ、分割方法・内容の決定は相続人間での協議が基本となるので、分割方法・内容について、配偶者の方が巻き込まれるおそれがあります。しかし、事前に遺言を作成しておくことで、相続人間での紛争を避けることができます。
Q4.遺言はいつ用意すれば良いですか?+普通方式の遺言3種の意義・メリットデメリットの紹介
遺言書には、有効期限のようなものはなく、死亡する何十年前に作成されたものであっても、その効力が認められます。また、遺言書を作成することで、自己の意思を遺された家族に示すことができますし、親族間での相続に関する争いなどを避けられる側面もあります。このような観点からも、少しでも早めに遺言書を作成し、万一に備えておく方が良いでしょう。
もっとも、遺言には複数の種類があり、それぞれメリットやデメリットがあります。以下では、代表的な3種類の遺言の方式と、それぞれのメリット・デメリットを紹介します。
(1)自筆証書遺言(民法968条1項) 「自筆証書遺言」とは、遺言者が、全文・日付・氏名を自書し、これに押印して作成する遺言です。
メリット:作成を遺言者単独で行うことができ、遺言内容の秘密を保つことができること。方式が分かりやすく、特に費用もかからないこと。自筆証書遺言保管制度を活用することで、遺言の滅失・偽造などを避け、検認が不要となること。
デメリット:遺言書が管理されていない場合、遺言が発見されなかったり、偽造されたりする可能性があること。遺言者以外誰もチェックしないため、遺言の要件(遺言書の方式や遺言能力など)を満たさない可能性があり、その遺言が無効となってしまうリスクが高いこと。相続開始後に「検認」の手続きを経る必要があること。
(2)公正証書遺言(民法969条) 「公正証書遺言」とは、証人2人以上の立会いの下、遺言者が遺言の内容を公証人に口授し、公証人が筆記した内容を読み聞かせ、遺言者と証人の署名押印の上、公正証書によって作成される遺言書をいいます。
メリット:公証人が関与することで、遺言の要件(方式・遺言能力)不充足を極力避けることができること。公証役場で原本が保管されるため、滅失・偽造などを避けられること。検認が不要であること。
デメリット:内容の秘密が保障されないこと。少なくとも公証人と証人2人以上の関与が必要で、費用・時間がかかること。
(3)秘密証書遺言(民法970条) 「秘密証書遺言」とは、遺言者が作成した遺言書を封印し、その封書を、公証人と証人2人以上の前に提出し、所定の手続きを経て作成される遺言書をいいます。
メリット:(一応)遺言内容の秘密を保持することができること。 ⇒ただし、自筆証書遺言の方が秘密を保ちやすい。
デメリット:秘密証書遺言を作成したこと自体は、相続人などに知れ渡ること。公証人や証人が手続きには関与するものの、その内容は把握できないため、遺言の要件を満たしていない可能性があること。費用もかかること。
以上のそれぞれのメリット・デメリットを踏まえると、「秘密証書遺言」のメリットは極端に少ないため、「自筆証書遺言」又は「公正証書遺言」のいずれかを作成することが良いといえるでしょう。このいずれを選択すべきかは、費用・時間をどれくらいかけられるか、遺言内容の秘密を保った方が良いか、遺言の有効性をどれほど重視すべきかなどの観点を踏まえて判断すべきといえるでしょう。
Q5.遺言は、訂正や取消し(撤回)ができますか?
遺言は、遺言者が自由に修正や撤回することができます。具体的には、以下の方法に従う必要がありますので、ご注意ください。
(1)遺言の訂正・加入・削除(以下では、これらを併せて「訂正等」といいます。)について
①自筆証書遺言と秘密証書遺言 これらの遺言の修正は、遺言者自身が、変更箇所を指示し(ex.二重線を引く)、変更したことを付記し、その付記部分に署名をしたうえ、変更箇所に押印が必要となります。この訂正方法に反する方法では、遺言の修正とは不十分であり、変更前の遺言の効力が維持されることになってしまうため、注意が必要です。また、遺言書に文言を加えたり、削除したりしたい場合についても、同様の方法を採る必要があります。もっとも、このような訂正・加入・削除方法を採らなくても、後述の「遺言の撤回方法」を採用した方が、遺言の訂正等が無効となるリスクを減らし、変更したい内容を遺言に確実に反映しやすくなるといえるでしょう。
②公正証書遺言 公正証書遺言は、公証役場にて保管されているため、訂正等を遺言者一人で行うことはできません。基本的には、新たな遺言書を作り直すことになり、その際は、公正証書遺言以外の遺言を作成するのでも構いません(詳しくは、後述の「遺言による撤回」をご参照ください。)。ただし、遺言内容自体を変更せず、表記を変更する程度である場合には、公証人の判断で、「更生証書」や「補充証書」、場合によっては「誤記証明書」を作成してもらうことで、公正証書遺言の訂正等が認められることがあります。
(2)遺言の撤回 遺言の撤回方法は、以下の4つの方法があります。
①遺言による撤回(民法1022条) 遺言者は、いつでも遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回できます。その際、撤回対象となる遺言と同じ遺言方式である必要はありません。たとえば、公正証書遺言を撤回しようとする場合、新たに有効な自筆証書遺言を作成し、そこに「前の公正証書遺言を撤回する。」などと記載すれば、遺言の撤回が認められます(新たな遺言の効力が認められます)。
②抵触遺言による撤回(民法1023条1項) ①のように、新たな遺言に撤回する旨の記載がない場合であっても、新たな遺言が前の遺言の内容と抵触(矛盾)するときには、当該抵触部分は撤回されたものとみなされます。
③抵触行為による撤回(民法1023条2項) 遺言の内容と、その後の遺言者の法律行為とが抵触する場合にも、当該抵触部分は撤回されたものとみなされます。たとえば、遺言者Aが、「不動産甲は、Xに遺贈する。」という遺言を作成したものの、その後Aが不動産甲をYに贈与した場合、遺言と遺言者の法律行為が抵触(矛盾)するため、Xへ遺贈する旨の遺言は撤回されたということになります。
④遺言書の破棄による撤回(民法1024条) 遺言者が、既に作成した遺言書や遺贈の目的物を故意に破棄した場合、その破棄部分は撤回されたものとみなされます。たとえば、遺言者Aが「絵画甲は、Xに遺贈する。」という遺言を作成したものの、その後Aがその遺言書をわざと破棄したり、絵画甲を破棄したりした場合には、その遺言は撤回されたということになります。
遺言の訂正等や撤回は、遺言の作成同様、方法が厳格に定まっています。新たに遺言書を作成することで、変更したい内容を含んだ遺言書を有効に作成しやすいですが、それでも有効な遺言書を作成することが必須となります。遺言の作成や訂正、撤回などについて不安や疑問がありましたら、ぜひ専門家にご相談ください。
Q6.遺言に有効期限はありますか?
遺言書として要求される形式を守り、遺言作成時に遺言能力があると認められれば、その遺言書は有効であり、特に有効期限はありません。亡くなる何十年前に作成した遺言書であっても、遺言者が死亡することでその効力が生じます。また、遺言は、遺言者が自由に撤回することができるので、遺言に納得いかなければ撤回することでその効力を失わせることができます(遺言の撤回については、「遺言は、訂正や取消し(撤回)ができますか?」をご参照ください)。ただし、以下のように、遺言の形式的要件と遺言能力については、遺言の有効性にかかわるので、注意が必要です。
(1)遺言の形式的要件 遺言に要求される形式は厳格なため、遺言の形式要件を満たしているかはきちんとチェックすべきです。遺言書には、大きく分けて「普通方式の遺言」と「特別方式の遺言」がありますが、主に作成される遺言は、「普通方式の遺言」です。「普通方式の遺言」としては、自筆証書遺言や公正証書遺言がよく用いられますが、他にも秘密証書遺言もあります。いずれの遺言についても、自筆が要求されるか、証人が何人必要かなど細かな要件が定められていますので、注意が必要です。
(2)遺言能力 遺言作成時において、遺言者に遺言能力がないと判断された場合、その遺言は無効となります。遺言能力があるか否かは、認知症などの症状の有無だけでなく、遺言者が、その遺言によりどのような影響を与えるのかを認識しているかなど専門的な知見を要する事項を踏まえて判断されます。
有効な遺言を作成するためにも、遺言作成に不安や疑問点がありましたら、ぜひ専門家にご相談ください。